今回は先天性疾患の家族性大腸ポリポーシス(familial adenomatous polyposis以下、FAP)について、歯科的特徴や治療の必要性をご説明していきます。どんな病気??前がん病変である大腸ポリープが数百から数千個生じ、そこから大腸がんが発生する腫瘍症候群です。発症は平均16歳(7~36歳)で、10万人に2~3人の頻度です。35歳までには95%のFAP保因者にポリープが生じます。大腸切除術を行わない限り、大腸がんの発症は避けがたく、未治療の場合、がん発症の平均年齢は39歳(34~43歳)で、軽症の場合、リスクは70%、発症の平均年齢は50~55歳と報告されています。大腸以外の病変はさまざまで、胃底部や十二指腸のポリープ、骨腫、歯牙異常、網膜色素上皮の先天性肥大、軟部組織腫瘍、デスモイド腫瘍、そしてこれらに関連するがんなどが含まれます。歯科や矯正歯科治療に関連する病変として、『骨腫』『埋伏歯』『過剰歯』『歯牙腫』が挙げられ、また、FAP患者の77%になんらかの歯の病変がみられることが報告されています。原因は??家族性大腸ポリポージス(FAP)/ガードナー症候群はどちらも同じ遺伝子が原因のため、現在では、FAPに胃腺がんおよび胃近位ポリポーシス(GAPPS) が含まれたAPC関連ポリポーシスとも言われます。疾患原因はAPC遺伝子の変異で、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の形式をとり、その子供は50%の確率でAPC遺伝子の病的バリアント(変異)を受け継ぎます。歯や口の問題って??『骨腫』『埋伏歯』『過剰歯』『歯牙腫』が特徴的な所見で、通常よりも発症頻度が高いこと(通常は1~2%だが、FAPでは30~75%の発症頻度)が知られています。それぞれについてご説明していきます。1.骨腫:過剰にできた骨組織のこと 通常は単発で発症しますが、FAPの場合は多発性にみられ、65%の方が下あごにできるとされています。歯科のレントゲンで偶然発見されることも多いです。通常は治療の必要はありませんが、大きくなってくると顔面の非対称や口腔内の狭小化、入れ歯などの安定性の低下、運動障害などを引き起こすため、場所や大きさによっては切除が必要です。2.埋伏歯:本来生えてくる歯が骨の中などにあり、出てきていない状態の歯のこと 完全に埋まった状態であれば自覚症状はないので、レントゲンなどでわかることがほとんどです。一般には親知らずなどは埋伏していることが多いです。FAPの場合、埋まっている歯の本数出てくる時期よりも大幅に遅れてしまっている場合や障害があり出てくることができない場合は、障害物を取り除き引っ張り出す必要があります。その場合は、矯正歯科治療が必要になります。3.過剰歯:通常よりも歯の本数が多いこと過剰歯の発生頻度は、一般集団では 1 ~ 5 % 程度です。 その約 80%が1本だけ歯がない状態です。 2 歯以上の発生頻度は高くありませんが、FAPの場合は一般集団よりも歯の数も発生頻度も高い傾向にあるとされています。無症状のため、歯が出てこない、レントゲンを撮って偶然分かったという事例がほとんどです。問題がなければ治療の適応にはなりませんが、位置などで他の歯に影響があれば抜歯をします。4.歯牙腫:多数の小さな歯のような構造物の集りで、膜に覆われている通常は1~2%の頻度ですが、FAP/ガードナー症候群では60~80%と高頻度にみられます。そのほとんどは下あごにみられ、歯科のレントゲンで容易に確認できるため、若年者に対するFAPのスクリーニングに適した診断のポイントになります。歯牙種があると歯が出てこられないため、取り除いてあげることで歯が生えてきます。これらの歯やあごの骨の病変の両方が確認される場合は、FAP/ガードナー症候群の可能性が高くなります。どんなときに治療が必要??歯が出てこない場合は矯正歯科治療が必要になる場合があります。ケースによっては、歯牙腫などを取り除くだけで出てきてくれることもあるので、まずはレントゲンを撮ってみて、原因が何なのかを確認する必要があります。骨種の場合は、審美的に非対称が気になる、当たって痛い、話しづらいなど日常生活に支障をきたす場合は切除を検討されても良いと思います。どこの歯科クリニックでも保険適応で矯正歯科治療ができる??厚生労働省の施設認定を受けたクリニックで矯正歯科治療が保険適応になります。全国にある歯学部の附属病院やホームページなどで施設認定を受けていることを標榜されているクリニックにお問い合わせいただくと、スムーズだと思います。今回の改定で保険適応になったことは、矯正歯科治療をお考えの方にとってハードルが低くなったのではないでしょうか。まずはご相談だけでも受けていただき、ご自身の歯やあごの状態を確認されることをお勧めします。また、いきなり矯正、、というわけではないケースもたくさんあると思います。歯科検診は一般的に3か月に1回の頻度が推奨されています。スクリーニングや検診を兼ねて、お近くの歯科医院でご相談されることも一案です。歯科で撮るレントゲンは若年者でも負担が少なく、幼稚園のお子様でもお一人で撮影していただけます。FAPの診断スクリーニングの一助にもなるので、遺伝子検査や大腸カメラは年齢や侵襲性の問題から将来的に検討になるかもしれませんが、歯科的アプローチで早くからフォローを始めるられることは大きなメリットだと思います。ただ、残念ながら歯科のなかでもまだまだ周知が不十分なこともあり、希望される案内をしていただけないこともあるかもしれません。こちらの内容が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。最後に。2024年6月8日に家族性大腸ポリポーシス患者と家族の会であるハーモニーラインに参加させていただきました。明海大学の須田先生より、FAPの歯科的問題と日常の口腔ケアのアドバイスなどの講演を拝聴させていただきました。食事問題や術後の経過など、ざっくばらんにお互いの経験や思いを共有され、また、フリートークタイムには積極的なご質問があり、ご参加の方々が頭の片隅で歯のことを気がかりなまま、これまで過ごされてきたご様子がとても伝わりました。私自身も歯科医師としてできることを気持ち新たに考えるきっかけになりました。【参考文献】R.J. Gorlin, et al.,(1990) : Gardner syndrome in syndromes of the head and neckGardner syndrome in syndromes of the head and neckTimothy Yen, MD, at al., : Gene Review-APC-Associated Polyposis ConditionsGene Review Japan ガードナー症候群:日本語訳者 櫻井晃洋Septer S, et al.,(2018) : Dental anomalies in pediatric patients with familial adenomatous polyposis吉田祥子ら著(2016): Gardner 症候群患者に認められた巨大な下顎骨骨腫の1例Marina de Oriveira Ribas, et al., (2009) : Oral and Maxillofacial Manifestations of Familial Adenomatous Polyposis (Gardner’s syndrome): A Report of Two CasesWijn MA, et al.,(2007) : Oral and maxillofacial manifestations of familial adenomatous polyposis.Arati Chaudhary, et al.,(2010) : Gardner’s Syndrome—The Importance of Early Diagnosis: A Case Report and Review of Literature